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東京高等裁判所 昭和49年(ネ)3087号 判決 1975年12月18日

控訴人 幸三こと 新谷鋼三

被控訴人 宮田印刷株式会社

右代表者代表取締役 宮田孝

右訴訟代理人弁護士 倉内節子

主文

本件控訴を棄却する。

原判決主文第一項を更正し「六月九日以降」とあるつぎに「完済まで」を加える。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴人は、「原判決中、控訴人敗訴部分を取り消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張ならびに証拠の提出、援用および認否は、つぎのとおり訂正するほか、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

原判決二枚目―記録一三丁―裏二行目の「抗弁事実を否認した。」を「抗弁中、五・六月号が九月二一日に七・八月号が一一月二一日に発行されたこと、契約解除の意思表示があったことは認めるが、その余の事実は否認する。五・六月号および八・九月号の発行が遅れたのは、控訴人からの原稿の交付が発行予定日よりも大幅に遅れたことに原因があり、被控訴人に責任はない。また、九・一〇月号は一一月二六日に印刷製本を完了していたが、控訴人がすでに納入を受けた五月ないし八月号分および右の九・一〇月号分の代金を支払おうとしないので、一時納入をストップしただけであり(留置権行使)、一二月七日には納入を完了した。」と改める。

≪証拠関係省略≫

理由

一、被控訴人は欧文図書の印刷製本を主たる業務とする株式会社であって、控訴人との間で、昭和四七年五月から、隔月発行の雑誌「EPI」の印刷製本の取引が開始されたことは、控訴人においてあきらかに争わないから、これを自白したものとみなす。そして、被控訴人が、右雑誌を、昭和四七年七月末日発行予定の五・六月号については同年九月二一日に、同年九月末日発行予定の七・八月号については同年一一月二一日に、それぞれ印刷製本のうえ納入したことは、当事者間に争いがなく、≪証拠省略≫を総合すれば、前記雑誌の九・一〇月号については、昭和四七年一一月二九日納入予定のところ(もっとも、一一月二八日納入予定という証拠もある)、被控訴人は同年一二月七日(もっとも、一二月九日ごろという証拠もある)、控訴人から指定のあった日本貿易振興会ほか三ヶ所に配送して納入したことが認められ(る。)≪証拠判断省略≫

二、そこで、控訴人の契約解除の主張について検討するに、控訴人が昭和四七年一二月一日、被控訴人に対し、債務不履行を理由として本件契約を解除する旨の意思表示をしたことは、当事者間に争いがない。しかして、五・六月号および七・八月号については、その納入が発行予定日よりも大幅に遅れたことは前記のとおりであるが、審理の結果によれば、控訴人は異議なく右の納入を受領しているばかりでなく、遅滞の原因は、控訴人からの原稿の交付が大幅に遅れたことにあることが認められるから、右五・六月号および七・八月号については、遅滞の責任が被控訴人にあるということはできず、したがって、これを理由にして契約を解除することは許されない。この点に関する当裁判所の判断は、原判決四枚目―記録一五丁―表三行目から原判決五枚目―記録一六丁―裏八行目までと同一であるから、これを引用する(ただし、原判決四枚目―記録一五丁―表六行目の「原告代表者」の前に「前掲」を加え、同行の「号各証以下」を「、第三号証の各一、二、」と改め、同七行目の「証人」から同行の末尾までを削除し、同八行目冒頭に「前掲」を加え、同行の「第五号証」から九行目の「第九、」までを削除し、同一〇行目の「その余の」のつぎに「後掲」を加え、同一一行目の「当事者」のつぎに「間」を加え、同裏五行目の「一二日」を「一五日」と改める)。

つぎに、九・一〇月号については、当初の納入予定が昭和四七年一一月二九日のところ、実際には同年一二月七日に納入されたことは前記のとおりであるが(もっとも、納入予定が一一月二八日で実際に納入されたのが一二月九日ごろという証拠もあるが、そのいずれであるかによって結論に影響はない)、≪証拠省略≫によれば、九・一〇月号の納入が当初の予定よりも遅れたのは、本件取引に際しては納入後すみやかに代金を支払うとの約定がなされていたにもかかわらず、控訴人が納入ずみの五・六月号および七・八月号分の代金を支払おうとしないため、印刷製本は予定日までに完了していたが、被控訴人においてその納入を一時的にストップして代金を支払うよう折衝していたことによるものであることが認められるから、被控訴人が九・一〇月号について当初の納入期限を徒過したことはなんら違法ではないというべきである。けだし、納入ずみの五・六月号および七・八月号分の代金債務と九・一〇月号の納入義務とは、それ自体は別個の法律行為によって生じたものであるが、同一雑誌の印刷製本という継続的取引から生じた相互に密接な関連を有する債務であるから、その履行についても一定の牽連関係があるのは当然であって、控訴人がすでに期限の到来した代金債務の履行をしない以上、被控訴人は、右代金債務の履行があるまで、のちに期限が到来した納入義務の履行を拒みうると解することが、継続的取引契約の趣旨に合致し、かつ、当事者間の衡平に適するからである。

もっとも、代金の支払時期について、≪証拠省略≫中には、毎月二〇日締切り、翌日(具体的な日時については述べていないが、末日の趣旨と解される)現金払いの約定であったと述べた部分がある。そして、≪証拠省略≫によれば、被控訴人は、控訴人に対し、五・六月号分については昭和四七年一一月一日に、七・八月号分については同年一一月二一日にそれぞれ代金の支払いを請求していることが認められるから、右供述のとおりであるとすれば、五・六月号分の代金の支払時期は同年一二月末日、七・八月号分のそれは翌年一月末日となり、したがって、前記九・一〇月号の納入予定時にはいずれも履行期が到来していなかったことになるが、他方、右各証拠によれば、本件の当事者間で最初に取引された昭和四七年三・四月号分については、同年六月一五日に代金五〇万一、三一一円の支払いが請求され、同月二〇日に二五万円、七月六日に二〇万円、同月三一日に五万円とその大部分が請求の翌月末日以前の段階で支払いずみであるうえ、控訴人みずから、一一月一日請求の五・六月号分については一一月を、一一月二一日請求の七・八月号分については一二月をそれぞれ支払時期と考え、かつ、被控訴人から送られて来た請求書にその旨を書き込んでいたことが認められることと対照して、控訴人の右供述は信用できず、ほかに前記認定を左右するに足る証拠はない。

三、そうとすれば、九・一〇月号についても控訴人主張の契約解除はその効果の発生を認めることができず、被控訴人がした納入は有効であるから、控訴人は、五・六月号および七・八月号分についてだけでなく、九・一〇月号分についても全額代金の支払義務があるものというべく、さらに≪証拠省略≫によれば、前記三・四月号も冒頭で判示した昭和四七年五月以降の取引であって代金の一部分が未払いであることが認められるのでこれについても支払義務があり、≪証拠省略≫によれば、控訴人が被控訴人に対して支払うべき金額は、合計一〇三万八三六九円となることが認められ、右認定に反する証拠はない。

なお、控訴人は相殺の主張をするが、上述したように、本件取引に関して被控訴人にはなんらの債務不履行をも認めることができないから、控訴人の主張する損害賠償債権の発生を認めるに由なく、したがって、右主張はその余の点について判断するまでもなく前提を欠き失当というべきである。

四、以上の次第で、被控訴人の本訴請求は全部理由があるが、被控訴人より控訴も付帯控訴もない本件では、控訴人に対して原判決が認容した以上の金額の支払いを命ずることはできないから、結局、原判決を正当として維持すべく、本件控訴を棄却することとし、なお原判決主文第一項には明白な誤謬(脱落)があるからこれを更正し、控訴費用の負担につき民訴法九五条、八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 吉岡進 裁判官 兼子徹夫 太田豊)

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